大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和48年(あ)970号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人成瀬寿一の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。なお、宅地建物取引業法一二条一項(昭和四六年法律第一一〇号による改正前のもの)にいう「宅地建物取引業を営む」とは、営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅地建物取引業法二条二号所定の行為をなすことをいうものと解するべきである。これに反する原判断は、法令の解釈を誤つたものであるが、記録によれば、被告人が本件宅地の売渡しにつき利得の目的を有していたことが明らかであるから、この誤りは、判決に影響を及ぼさない。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(大塚喜一郎 岡原昌男 小川信雄 吉田豊)

弁護人成瀬寿一の上告趣意(昭和四八年六月八日付)

一、原審判決によれば、宅地建物取引業を営むについては知事の免許が必要であるところ、被告人は普泉寺の伽藍建立資金調達のため、自己所有に係る山林を造成した宅地を第三者に売却して宅地建物取引業を営んだにもかかわらず、同人はかかる免許を受けていないことは証拠上明白であるから、第一審裁判所が宅地建物取引業法第一一二条第一項違反の罪を認めたのは相当であるという。

しかし、右判断は次項で述べる通り、宅地建物取引業の解釈を誤り、ひいては判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることは明白であるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと思料する。

二1 宅地建物取引業法上、宅地建物取引業とはその第二条第二号で定義されており、

「業として」

(1) 宅地もしくは建物の売買もしくは交換

(2) 宅地もしくは建物の売買、交換もしくは貸借の代理もしくは媒介をする行為

をいう。

2 本件で被告人は宅地の売買をしている。

しからば被告人はこれを「業として」行つたか。

業として行つたとは言えない。

被告人は宅地建物取引業者ではない。

3 即ち「業として」とは「営業する」ということである。

つまり営利の目的をもつて、計画的に、不特定数の同種の行為を反復的、集団的、継続的に行うことである。

被告人は禅宗地蔵院及び普泉寺再建を目的として、伽藍建立資金調達のために宅地を造成並びに売買したものである。

既に六百平方メートルの坐禅堂及び礼拝堂が再建され、国の資産に準ずる公益宗教法人の所有となつている。

そこには宗教目的はあつても営利目的はない。

殊に被告人は他人から土地を有償的に取得してこれを販売したわけではない。

元来所有していた山林を伽藍建立資金を得るため売却したものである。

唯、その所有地が山林の上広域であつて、一括処分が不可能であるので、宅地に造成して区画を設け、区画別に切り売りをしたにすぎない。

「切り売り」は反復的、集団的、継続的販売とは異なる。

4 仮りに被告人が宅地建物取引業となるならば、もともとから自己の所有であつた土地を都合により切り売りする者はすべて宅地建物取引業者となり、知事の免許が必要となる。

宅地建物取引業法は自己の所有地を処分する場合の適用を予定していないものである。

三、要するに被告人は宅地建物取引業を営んだものではなく、従つて、知事の免許は不要であるから、被告人は無罪である。

原審判決は破棄されるべきである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例